ベテラン
勝谷 紳
数字が好きじゃなくても、23年続いた。
この仕事で大切なのは「人と向き合うこと」
運送会社から、なぜまったく違う会計の仕事へ転職したのですか?
前職は運送会社で、体を動かす仕事をしていました。
30歳くらいになった頃、「このままずっと肉体労働を続けていくのは、体力的に厳しいかもしれない」と思うようになったんです。
それをきっかけに、今度は事務系の仕事を探してみようと考えました。
とはいえ、その頃は今ほど転職先を自由に選べるような時代でもなかったので、「絶対にこの業界に行きたい」という明確なものがあったわけではありません。事務系の仕事を探す中で見つけたのが、この会社でした。
農業に関しても、本当に何も知らなかったです。
農業に関わる仕事をしていたわけでもなければ、身近に農家がいたわけでもない。まったく知らない世界に飛び込んだ、という感じでした。
それが、気づけば23年です。
自分でも、こんなに長く続けることになるとは思っていなかったですね(笑)。
23年間続けてきて、この仕事のどこに面白さを感じていますか?
一番は、税務だけでは終わらないところです。
私たちは会計に関わる仕事なので、一年間の大きなゴールとしては、お客様の税務申告があります。
そのために一年を通してお客様と会い、帳簿や資料を確認していく。
もちろん、それが基本の仕事です。
でも、実際に農業者の方のところへ伺うと、それだけでは終わらないんですよね。
当社のお客様は、ほとんどが農業者です。
農業という仕事柄、普段から外部の人と話す機会がそれほど多くない方もいます。だから私たちが伺うと、本当にいろいろな話をしてくださいます。
税務の相談もあれば、経営について聞かれることもある。時には、会計事務所としての枠を超えた相談もある(笑)。
でも、そこが面白いんです。
相談されたことに対して、自分たちにできることを考える。
それによってお客様の困りごとが解決したり、そこからまた別の仕事につながったりすることもあります。
前職では、基本的にやることが決まっていました。
今の仕事は、自分たちがどう動くかによって、仕事の幅そのものを広げていける。
23年続けてこられた理由の一つは、そこにあると思います。

お客様との関係で、特に印象に残っていることはありますか?
法人を設立するところから関わらせていただいたお客様は、特に印象に残っています。
「これから法人をつくりたい」というタイミングで相談をいただき、設立に必要な手続きや税務について、一つずつお話ししながら進めていきました。
何もないところから会社が生まれる。その入口から一緒に関わっているので、相談されることも自然と多くなります。
その分、こちらの仕事に対して感謝していただける機会も多いんです。
そうして長く付き合っていくうちに、仕事だけではない話までしていただける関係になっていくこともあります。
「ちょっと困ったことがあって」と電話をもらったり、時には本当に何でも相談してもらったり。
少し言い方が難しいですけど、長く付き合っていると、友人に近いような感覚になるお客様もいます。
それはありがたいことだなと思います。
私たちが扱っているのは数字ですが、その数字の向こう側には、その人の事業や暮らしがあります。
会社を立ち上げた時から知っていて、そこから何年も経営を続けている姿を見る。
そうやって一人の事業者と長く関われるのは、この仕事ならではだと思います。
「何でも相談してもらえる人」になるために、大切にしていることはありますか?
若いスタッフにもよく伝えているのですが、「それはうちの専門じゃないので」で終わらせないことは大切にしています。
会計事務所というと、どうしても「税務申告をするところ」というイメージがあります。
働く側も長くいると、「自分たちの仕事はここまで」と固定観念を持ってしまいやすいんですよね。
でも、お客様と付き合っていれば、当然いろいろな相談が出てきます。
その時に、
「それは専門外なので分かりません」
で終わらせてしまったら、そこで終わりです。
まずは、一回聞いてみる。
聞いた上で、自分たちに解決できることなのかを考える。
自分たちでは難しいのであれば、それを解決できる人につなげる。
自分が直接答えを持っていなくても、お客様が次に進めるようなところまでは一緒に考えるようにしています。
それを繰り返していると、「何かあったらまず相談してみよう」と思ってもらえるようになる。
私は、そこが大事だと思っています。
仕事って、最初から決められているものだけではないんですよね。
お客様との会話の中から、新しい仕事が生まれることもあります。
だからこそ、目の前の相談を一度受け止める姿勢は、これから入ってくる人にも大切にしてほしいと思っています。

数字が得意じゃないと、この仕事は難しいですか?
これ、よく思われるかもしれないですけど、私自身、数字は別に好きじゃないですよ(笑)。
20年以上この仕事をしていますけど、数字が大好きだから続けているわけではありません。
会計や税務の仕事なので、もちろん数字を扱います。でも、必要な知識は仕事をしていれば身についてきます。
それ以上に大切なのは、人と接することに抵抗がないことだと思います。
特にお客様のところへ訪問する仕事であれば、直接話をして、相手が何を考えているのかを聞かなければいけません。
数字がすごく得意でも、人とのコミュニケーションが極端に苦手だと、そこで難しさを感じることはあると思います。
逆に、人と話すことが好きだったり、誰かの話を聞くことが楽しいと思えたりする人は、この仕事に向いていると思います。
だからといって、全員が外回りをしなければいけないわけでもありません。
社内には、書類を処理したり、パソコンを使ってデータを確認したりする仕事もたくさんあります。
外へ出るより、社内で集中して仕事をする方が得意な人もいる。
それぞれ得意なことは違うので、その人に合う仕事をつくっていければいいと思っています。
「会計事務所だから、数字が得意じゃなきゃダメ」
そんなふうに最初から選択肢を狭める必要はないと思います。
新しい会社で、これからどんな組織をつくっていきたいですか?
今、一番つくりたいのは、スタッフに少し「余裕」がある環境です。
私自身、現在は個人事業のお客様を約50件、法人のお客様を20数件担当しています。ほかのスタッフも含め、一人あたりが抱えている業務量は決して少なくありません。
本当は、お客様との会話の中に「もっとこういうことができそうだな」と思うことがたくさんあるんです。
先ほど、相談から新しい仕事につながるという話をしましたが、実際にはその可能性があっても、日々の業務に追われていると、そこまで手を伸ばせないこともあります。
それが一番もったいないと思っています。
人が増えて、一人ひとりに少し余白が生まれれば、お客様と話す時間をもっとつくれる。新しい提案を考えることもできる。既存の業務だけではなく、自分がやってみたいことに挑戦する時間もつくれます。
今いるスタッフも、自分でいろいろ考えて動ける人たちばかりです。
だからこそ、こちらから細かく指示するというより、それぞれが考えたことを動かせる環境をつくりたい。
人を増やすことは、単純に一人あたりの仕事を減らすためだけではありません。
余白ができることで、今までできなかった仕事ができるようになる。そんな会社にしていきたいと思っています。

最後に、これから入社する人へ伝えたいことは?
この仕事を始める前、私は農業について何も知りませんでした。
でも、実際に農業者の方と話すようになると、それまでとは食べ物の見え方も少し変わってきました。
普段何気なく食べている野菜や農産物を、どんな人が、どんな仕事をしてつくっているのか。
生産者と直接話すことで、その向こう側が見えるようになります。
北海道は、日本の食を支えている地域でもあります。
そこで働く人たちと直接話をして、経営を支える仕事ができる。
これは、なかなか経験できることではないと思います。
もう一つ、この仕事の大きな魅力だと思うのが、経営者と直接話せることです。
普通の会社に入って、入社して間もない社員が、取引先の社長や代表者と直接話す機会って、それほど多くないと思います。
でも、この仕事ではそれが日常です。
いろいろな経営者の考え方を聞いて、その会社のことを知って、時には人生の話まで聞かせてもらう。
そういう経験を積めるだけでも、自分自身の視野はかなり広がると思います。
農業の知識がなくても大丈夫です。
会計を専門的に学んでいなくても大丈夫。
数字が好きじゃなくても、私は23年続いています(笑)。
それよりも、人と話すことを楽しめること。
誰かに相談された時に、「自分に何ができるだろう」と一緒に考えられること。
そういう人にとっては、すごく面白い仕事だと思います。
数字を扱う仕事ではありますが、結局向き合っているのは「人」です。
誰かに頼られ、その人の事業が続いていく過程をそばで見られる。
そこに面白さを感じてもらえる人と、一緒に働けたら嬉しいですね。